寅年の新年を迎えるに当たって(№377)

 急速にコロナ感染レベルが低下して行動基準が緩和された昨年11月半ばに、本州四国連絡高速道路主催の瀬戸大橋塔頂体験ツアーが再開されたのを機に参加しました。瀬戸大橋の中央に位置する与島SAにある管理事務所を、指示に従い、ヘルメット、イヤホン、ベスト、手袋、マスクで身を固めて出発し、徒歩で途中の遊歩道で巨大な瀬戸大橋の威容を眺めた後、吊橋を懸垂するケーブルの断面を刻んだ実寸大の模型像に立ち寄りました。直径5mmのワイヤー127本からなる1本のストランドを271本束ねて、径1mの1本のケーブルができあがります。そこを過ぎると多数のケーブルを地上で支える巨大なアンカレイジ(橋台)に到達します。構内に入ると、担当者1名が付き添い、参加者3人の計4人1組で高さ150mにあるアンカレイジ最上部にエレベーターで達し、高速道路の直下にあるマリンライナーが通る線路の外側に設置された保守点検用通路に出て、海風を受けながら足下に瀬戸内海の海面を見て進みます。橋脚主塔に水平移動した後、さらにエレベーターで海上175mにある左右主塔を結ぶブリッジ即ち塔頂に到着しました。
 南を向けば坂出から真直ぐに伸びる南備讃大橋、北備讃大橋の2つの大きな吊橋が、車が行きかう高速道と共に眼下に一直線に見下ろせます。振り返って北の鷲羽山のある児島側を見ると、櫃石島、岩黒島を伝ってしなるように曲線を描く斜張橋と高速道路を目にすることができました。午後からの晴天に恵まれ、美しい青い空と瀬戸内海とその島々が点在する周囲の風景を塔頂の視点から360℃俯瞰することができた貴重な体験でした。技術者出身のガイドの方から,実際の工事の工法から、橋脚を支える橋梁技術の工夫についての説明を受けました。耐荷重、耐風力、耐震、電波・レーダー対策など安全を期して数倍のマージンを取って実験と計算を繰り返して建設されたそうです。また、瀬戸大橋は、上部が高速道路、下部が鉄道橋の2重の構造となっており,現在の鉄道橋に並んで新幹線用のスペースも実は確保されています。瀬戸大橋の開通は1988年で、すでに33年が経過していますが、当時は日本経済の絶頂期にあたり、その時点の最先端の橋梁建設技術が投入され、“ジャパン・アズ・ナンバーワン”と呼ばれた時代の日本の国力を背景とした、関係者の情熱と努力に頭が下がりました。
 昨年は、新型コロナの全国的な蔓延で、地元での自粛生活が専らでしたが、身近な四国の中に訪れるべき場所や歴史がたくさんあることを逆に教えてもらった1年でした。科学立国のはずが経済優先を連呼し、防疫を疎かにして、結果的にコロナウィルスの全国的な蔓延を招き寄せたグローバリゼーションやインバウンド重視の思考を改め、科学に立脚した合理的で迅速なコロナ感染対策を行いつつ、地元中心の地方活性化の必要性を強く感じます。年頭に当たり、本年がコロナウィルス感染の終息を迎える端緒となるよう願う次第です。

(一県民)

2022年01月27日