「忖度(そんたく)」で思うこと(№336)

 「忖度」は古くからある言葉で、中国の古典「詩経」や日本でも平安時代の「菅家後集」に見られます。
 本来「忖度」の意味は「他人の気持ちを推し量る」ことで、それによる行動までは含まれません。従って良いも悪いもなく中立的な言葉です。人間社会においては相手の気持ちを推し量るというのは当然のことです。その結果どのような行動をとるかが問題であって、「良い忖度」にも、「悪い忖度」にもなります。
 昨年、「森友・加計」問題で「忖度」が行われたと連日メディアに取り上げられ、ついに流行語大賞にも選ばれました。その結果「忖度」イコール「上役などの意向を推測して、相手に気に入られようと不適切な行いをすること」など、「忖度」はすっかり悪い意味になってしまいました。「悪い忖度」が今流行するのは、社会の許容範囲を逸脱し、デッドラインに達したという赤信号かもしれません。
 一方、最近話題のAI(人工知能)は忖度をしないと言われています。
 先頃、中国のIT企業テンセントのAIキャラクターが共産党を批判して話題になりました。「中国共産党万歳」と検索すると「こんなに腐敗している政治に万歳するの?」と反論したり、「中国の夢」に対して「それはアメリカに移住することだ」と回答したと報道され、これがネットで一気に拡散したため、テンセントはサービスを停止。その後、システムに調整が加えられ、同じ質問をしても「話題を変えよう」などと、はぐらかすようになったそうです。テンセントが中国共産党に「忖度」して、AIに「忖度」?をさせるようにしたことになります。
 最近のAIは深層学習(ディ-プラーニング)の機能の進化が著しく、囲碁AIが人間の世界チャンピオンを負かすまでになりました。つまりビッグデータをもとに指示がなくても自己学習して、多方面で人間以上の能力を発揮できるようになる可能性があります。今はAI自ら「忖度」はできなくても、将来人間らしさを学習した、人間の常識や、感情、倫理観を備えたAIが出てくるとなると、その時は、AIは人間と同じように自ら「忖度」したり、「故意の嘘」をつくようになるかもしれません。人間がAIに忖度する時代が来るかもしれません。
 我々はいつの時代でも、「良い忖度」をするよう心掛けたいものです。

(だだんだん)

2018年09月27日