屏風絵と和歌による日本の系譜(№322)

 昨年、「国宝燕子花図屏風-歌をまとう絵の系譜」と題して、東京の南青山にある根津美術館で開かれた展覧会を見る機会がありました。
 最初に、江戸時代の元禄年間に活躍した、欧米人に最も人気が高いとされる尾形光琳の筆になる国宝「燕子花図屏風」が展示されていて、それに対し、伊勢物語の「からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう」の和歌が添えられていました。頭文字の韻を踏むと「か・き・つ・は・た」となる折句の手法を用いた歌で、在原業平が燕子花を前に即興で歌ったとされ、ほとばしる才能を窺わせます。
 展示されていた各和歌には、外国人向けに平易な英語訳が同時に表示されていて、古文に疎い現代人にもその歌の意味をつかむのがかえって容易でした。これらの中で私が一番気にいった歌は、「吉野龍田図屏風」の満開の桜の花の屏風絵に付された「ことしより はるしりそむる さくらばな ちるということは ならわざらなむ(習わないでほしい)」の歌でした。さて、この歌の作者は一体誰かと思い、後で調べたところ、平安時代に土佐の国司を勤め、土佐日記の作者で有名な紀貫之の作で、古今和歌集の中の一首と判明しました。
 実際に、会場には外国人も多く来館しており、屏風絵と和歌が見事に調和する日本文化の一端を味わうとともに、古来人々が愛着を持って花々に接していたことを改めて感じました。

(一観覧者)

2017年09月27日